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富山地方裁判所 昭和47年(行ク)1号 決定 1973年1月23日

申請人 能島宇則 ほか二七名

被申請人 富山県知事

訴訟代理人 服部勝彦 ほか五名

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一、当事者双方の求める裁判

(申請人ら)

被申請人が昭和四七年二月二二日付でなした別紙事業目録記載の都市計画事業の認可に基づく執行は本案判決が確定するまでこれを停止する。

(被申請人)

主文と同旨。

第二、当事者双方の主張<省略>

第三、疎明<省略>

第四、当裁判所の判断

一、<証拠省略>を総合すると、建設大臣は昭和二八年二月六日旧法二条に基づき建設省告示第三三号をもつて、富山県下新川郡桜井町を対象として都市計画区域の決定をしたが、翌二九年四月一日右桜井町は生地町と合併し黒部市として発足したので、生地町も右都市計画区域に編入されたこと、建設大臣は昭和四〇年一月一四日黒部市の申請により富山都市計画地方審議会の答申を経て、黒部市都市計画街路第二等大路第二種第五号荻生大布施線の都市計画決定を旧法三条に基づき建設省告示第四七号をもつてしたこと、そして、被申請人は昭和四七年二月二二日右都市計画決定にかかる荻生大布施線の一部について、黒部市の認可申請(法六〇条)に基づき、富山県告示第一四五号をもつて本件認可処分をしたこと、および本件認可にかかる都市計画事業の対象は、西方既設の都市計画街路前沢大布施線との交点から、東方既設の県道沓掛魚津線との交点に至る幅員一六メートル、延長距離七八〇メートルであるところ、右路線上には、申請人らのうち浦田哲夫、永原隆、池田崇、島田健太郎、橘日出夫、能島宇則、辻啓之助、長谷川正己、越村初枝、志村かとり、植木晃原、山田まさ子、牧野政二、原田辰五郎、川崎国男の一五名が不動産を所有し、他の一三名の申請人は本件認可にかかる路線上に不動産を所有していないが、都市計画決定のなされた街路上には不動産を所有しているものであること、以上の事実が一応認められる。

二、ところで、本件は、本件認可にかかる路線および都市計画決定のなされた路線上に不動産を所有する申請人らが、本件認可処分の効力停止を求めて申請をしたものであるが、その申請の適否についての判断はしばらくおき、まず、右処分によつて生ずる回復困難な損害を避けるため、本件認可の効力を停止する緊急の必要性が存するか否かについて検討する。

<証拠省略>によれば、黒部市は本件認可にかかる都市計画事業関係の予算として、昭和四十六年度には事業費五三五万二〇〇〇円、用地費六〇〇万円、事務費一六六万七〇〇〇円を、昭和四七年度には職員給与費二九六万九〇〇〇円、用地購入費八四八万円、補償金八二六万円、仮設排水路費四五万円、事務費六七万五〇〇〇円を各計上して本件都市計画事業に着手しようとしていることが認められるけれども、他方、<証拠省略>によれば、本件都市計画事業は昭和四六年度の国庫補助事業として新規採択され黒部市においては、昭和四六年度中に右事業の実施に着手すべく、同年度事業費九〇〇万円で本件事業の賛成者から用地の一部を取得しようとしたものであるが、本件事業の反対者もあるところから関係者全体の円満解決をはかつた上で用地を取得する方が事業の推進上好ましいことであると考えたので、同年度中には用地の取得を行なわず、同年度事業費を全額翌四七年度に繰越すこととして、未だ用地の取得にも着手していないことおよび右事業費は専ら用地の取得にあてられるものであつて、直ちに形質の変更、物件の移転等原状回復の困難な工事を実施するための費用ではないことが認められる。

ところで、行政処分の効力停止の要件たる回復の困難な損害とは、金銭賠償をもつては償うことのできない損害または金銭賠償が可能であつても、例えば処分の執行によつて倒産、家庭崩壊、健康阻害等の危険があるとか、あるいは代替地の再取得が客観的にみて困難であるなど、社会通念に照し金銭賠償のみをもつては容易に填補されないと認められるような損害の発生が予想される場合を意味するものと解されるところ、本件全証拠によつてもかかる事実を認めるに足る疎明はない。しかも、都市計画事業の場合、法五九条に基づく事業認可がなされると、土地収用法二〇条の規定による事業の認定があつたものとみなされるが(法七〇条一項)、事業の認定は、起業者(本件都市計画事業の場合は施行者たる黒部市)に法律に定められた手続を経ることを条件として、事業地内の用地等収用の権限を設定する処分であつて、用地等所有者の権利に未だ直接に差迫つた不利益をもたらす効果を有するものではなく、また、法六二条一項の規定による告示がなされると、当該事業地内において都市計画事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物の建築その他工作物の建設を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくは堆積を行うについては知事の許可を受けるべき制限(法六五条一項)および法六六条一項の規定による公告がなされると、公告の日の翌日から起算して一〇日を経過した後に事業地内の土地建物等を有償で譲り渡そうとする者は、当該土地建物等、その予定対価の額、譲り渡そうとする相手方その他の事項を書面で施行者に届け出るべき制約(法六七条一項)を受けることとなるが、前着の制限は所定の行為を知事の許可にかからしめただけで全面的に禁止したわけではなく、後者は都市計画事業の円満迅速な遂行を期するため施行者に先買権(法六七条二項)行使の機会を与えるだけのもので、土地建物等所有者の譲渡する権利に対する制限とまでは解しがたい。しかも本件では、未だ収用裁決の申請すらなく、都市計画事業においては裁決に至るまで相当長期の期間を要し、法律上もそれが予定されていること(このことは、法七一条一項により土地収用法二九条および同法三四条の六の規定の適用が排除されていることに照しても明らかである。)ならびに前記昭和四六、四七年度の本件事業関係予算の使途の実情をも併せ考えるならば、本件処分の効力を停止すべき緊急の必要性をも欠くものといわなければならない。

三、以上の次第であるから、本件において申請人らの蒙る回復困難な損害およびこれを避けるための緊急の必要性について、その疎明なきことに帰し、申請人らの本件申請はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

よつて、本件申請を却下することとし、民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 土田勇 矢野清美 佐野久美子)

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